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【プロボノ活動】AOBAlution 2020(アオバリ)第一回ファンミーティング

柏木由美子

2020年1月18日(土)、たまプラーザのPEOPLEWISE CAFE(ピープルワイズカフェ)で「AOBAlution 2020」(以下、アオバリ)が開催されました。アオバリは、青葉区自立支援協議会の日中活動部分科会(※1)と青葉区が、福祉事業所の工賃アップを目指して立ち上げたプロジェクトです。この日は5カ月にわたって3つの事業所が取り組んできた内容と成果を地域の方々に向けて発表する「第一回ファンミーティング」が行なわれました。

(※1)
自立支援協議会は、地域の障害者への支援体制を関係機関が共有するとともに体制の整備について話し合う場であり、2012の改正障害者自立支援法によって法定化されています。青葉区自立支援協議会の日中活動分科会(会長はえだ福祉ホーム所長の杉山さん)では、福祉事業所で提供されている様々な日中活動の課題を共有し、サービス基盤の整備を進めています。

●障害者の工賃の現状~プロジェクト発足

福祉事業所に通う人の中には、事業所と雇用契約を結んで賃金を得ている人もいますが、障害や体調に合わせて自分のペースで働いている人もいます。後者の場合は雇用契約を結ばないため、法定最低賃金を下回っているのが実情です。神奈川県によると2019年度の横浜市における平均月額工賃は14,647円、時給換算で186円です。

参考: 神奈川県「平成30年度工賃の実績について」
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/yv4/kouchin.html

自治体としても工賃アップの取り組みを進めていますが、地域における障害者共生の風土がつくられていなかったり、事業所に販売のノウハウや機会が不足しているなどの課題があります。加えて、事業所にとって障害者は「福祉サービスの対象」であると同時に「労働者」でもあるという、一般企業にはない特徴もあります。

そこで、 過去に「Food presentation(※2)」を手掛けたNPO法人よこはま地域福祉研究センターの企画協力により2019年5月、工賃アップを目指すプロジェクトが始動しました。

(※2)
複数の福祉事業所が一同に会して商品をプレゼンテーションし、それを一般参加者が審査員となって品評するイベント。横浜市青葉区でもよこはま地域福祉研究センターの主催で2018年1月に開催されました。
参考:青葉区で福祉が熱くなった夜!たまプラーザでフードプレゼン開催
https://spiceupaoba.net/archives/7149

事業所の意識を変え、福祉のイメージを高め、地域に応援者を増やしたい ─ 「AOBAlution」という名前には、こうした革命(レボリューション)とも言えるレベルアップを横浜市青葉区のあちこちで起こしていこうという思いが込められています。

●完売商品も多数!商品販売会&ワークショップ

イベント当日、ファンミーティングの前に商品販売会とワークショップが行なわれました。参加したのは以下の区内7事業所と、県立元石川高校ボランティアグループ「More」の商品開発事業部グッズチームです。

・青葉メゾン
・えだ福祉ホーム
・グリーン
・すてっぷ
・田園工芸
・ネバーランド青葉
・桃の実

来場者は「他では見ない商品が多い」と話すなど一つひとつの商品に興味津々。販売者との会話も弾み、完売商品も出ました。またすてっぷの「金平糖キャンドル・ワークショップ」も、販売会のスタート時からキャンドルづくりを楽しむ親子連れなどでにぎわっていました。

会場では、えだ福祉ホームの利用者さんが車椅子でお菓子を販売していました。それを見た子供が母親に質問。初めて車椅子に乗っている人を見たのだそうです。お母さんの話を一生懸命聞いていたのが印象的でした。

●障害インクルージョンを企業の成長戦略へ

18時からのファンミーティングでは、最初に国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)障害担当の秋山愛子さんから「インクルーシブ社会をここから作ろう!国連・障害・ビジネス」と題した基調講演がありました。バンコク(タイ)に本部を置くESCAPは、アジア太平洋地域内外の経済関係の強化に取り組み、障害者・高齢者対策の分野でも成果を挙げています。

秋山さんはまず、人類共通の常識として「障害は個人のせいではないし、病気でもない。生活のしづらさである」と提言。例えば、ペットボトルのキャップが空けられない、老眼鏡をかけないと薬の説明が読めない、など「誰もが一度は障害を経験する」と続けます。

また「インクルージョン(inclusion)」に関しては、排除(exclusion)や隔離(segregation)、あるいはただ単にひとまとめにする(integration)のではなく、一個人として社会に受け入れられることだ(=包摂)、と説明。これまでは行政が社会福祉政策を充実させたり、差別を社会的に制裁したりしてきましたが、これからは「障害インクルージョンを経済政策に」と秋山さんは来場者へメッセージを送ります。

例えば、グーグル社が自動運転技術の開発に視覚障害者を採用するなど、世界的企業が新規商品やサービスの開発に障害者の考えや視点を取り込んでいます。商品を「一般用」と「障害者用」に分けて作るのではなく、「障害者が使いやすいものは誰にとっても使いやすい」という観点から、誰もが利用しやすい商品やサービスを「メインストリーム」にしようとしているのです。

●「福祉事業所×地域」で商品の魅力を高めよう

地域との関わりをつくりながら商品や工賃のレベルアップを目指してきた事業所の発表コーナーでは、最初に「田園工芸」が登壇しました。

メール便「ポストウェイ」の受託を行なっている田園工芸は、事業所周辺の各家庭の郵便受けに効率よく正確に冊子を配達するための独自の工夫を披露。配達を通して、地域の方々と挨拶したり、利用者同士でコミュニケーションを取ったりする機会も増えたそうです。

また自主製品に関しては、インスタグラムの活用や、廃材を利用してつくったメキシコのくす玉「ピニャータ」の製作工程を写真で紹介。インスタグラムを使うにあたっては田園工芸の特徴や強みは何かを利用者全員で考え、「eco & craft」というコンセプトのもとで商品PRを進めています。

次に発表したのは「あおば地域活動ホーム・すてっぷ」です。すてっぷではパンやクッキーと並んでキャンドルも製作していますが、ほとんど売上に結びつかない状況でした。そこで職員自らが日本キャンドル協会へ出向いてアドバイスをもらうなど、これまでは事業所内で完結していた取り組みを事業所外に拡大。また安全な使い方とともに「火」の良さを地域の子供たちへ伝えていく活動も始めようとしています。

最後の発表は「グリーン」です。グリーンは農作物の栽培から製造、販売までを行なう6次産業を手掛け、鴨志田町にアンテナショップ「とうり」を構えています。しかしとうりの訪問客は一日に一人か二人。そこで東急百貨店たまプラーザ店の障害者雇用チーム「えんちか」とのつながりから、商品の陳列や訴求方法についてプロの視点で課題を抽出してもらい、改善に取り組んでいます。

また同百貨店の顧客向けの来店プレゼントとしてドライフルーツ 700セットの注文に対応し、さらには同百貨店社員食堂での販売会、テレビの旅番組への出演も経験。いろいろな 方々 が商品を買ってくれるようになったことで、利用者自らが「サンキューカード」を発案するなどの変化が生まれています。

●地域の応援を福祉事業所のチカラに

この日は、それぞれの事業所に伴走してきた方々からも応援コメントがありました。田園工芸にはMoreの代表の鈴木さん、日本キャンドル協会の堀さん、東急百貨店たまプラーザ店「チームえんちか」の松田さん。他にも、ポストウェイの方々、廣田商事の廣田さん、青葉区長の小出さん、青葉メゾンの片瀬さんら、各事業所の取り組みを応援する方々に見守られながらの発表でした。

私も、田園工芸の伴走支援、および全体の広報支援に関わり、スパイスアップとしてもフライヤー作成に関わりました。ご近所さんということで「ちょっと寄り道」の感覚で訪問していましたが、数えてみると9回も訪問していて、我ながら驚きました。田園工芸の皆さんといろいろ試すうちに私自身がどんどん楽しくなっていったし、商品に込めた皆さんの思いをもっともっと地域に伝えたいと思いました。すっかり田園工芸ファンです(笑)。一緒に訪問してくれた地域の坂本さんや三井さんもきっとそうだと思います。

「インクルーシブなまちづくり」とは、一人ひとりが地域で暮らしやすくなるように社会や地域の障害を一つひとつ取り除いていくことだと私は思っています。そのために、何が障害なのかをみんなで共有したい、その人や事業所の思いを知りたい。

アオバリを通じて、今まではひとくくりになっていた「福祉事業所」が、エコなオリジナル雑貨の田園工芸、キャンドルアーティストのいるすてっぷ、地産地消のおいしいグリーンといったように、それぞれの「個性」が見えてきました。

どの事業所も素晴らしいものを持っていても、なかなか自分たちでは分からないし伸ばせないもの。アオバリを通じて自分たちの魅力を発見し、その魅力をどんどん伸ばしてもらえるといいなと思います。皆さんの地域には、実は皆さんを応援したい仲間はたくさんいます。

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