【人物図鑑 19】中村 卓司さん ─ 幸せになるレシピで調理するミステリアスな鉄人

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3丁目カフェ

長く大きなガラス窓にグレーやブラウンの木素材をモダンに使った外装が目をひくお店は、東急田園都市線藤が丘駅からゆっくり5分ほど歩いた、もえぎ野の交差点に位置しています。今回ご登場いただくのは、トラットリア・シャント 原田 亮さんからご紹介いただいた、中国料理「o8番地」のオーナー、中村卓司(なかむらたくじ)さんです。訪れたのは木枯らしの吹く日、コートを抑えながら到着すると、店内から長身の中村さんがやわらかな声で迎えてくださいました。

ブラウンを基調に、黒やグレーが調和した店内は落ち着きのある空間の広さを感じ、普段イメージする中国料理店とはかけ離れ、洗練された雰囲気に包まれています。

さりげなくカウンターに吊るされているバラ肉と腸詰は、熟成を待っている様子です。この「絵」がもう会話を生む仕掛けになっています。もちろん腸詰だということは分かるのですが、これをどのように調理されるのか気になりました。ご挨拶もそこそこに、真っ先にした質問は「これは何ですか?」

<寒いこの時期しか仕込むことができないというバラ肉。中国料理では定番の一品だそう>

◆客人を迎えるための空間演出にかけたエネルギー

<烏龍茶を淹れてくださいました。暖かく、ホッとするおもてなしが嬉しい>

中村さんの仕込むバラ肉や腸詰は、思わずお酒と一緒にオーダーしたくなるインパクトがありました。店内に並ぶボトルはワインが多数あり、お料理に合うお酒のチョイスもお任せしようかな、と思わせてくれます。

2年前にこの物件に出会い、店舗を作っていくにあたり、奥様と一緒にイメージを膨らませてオープン準備をなさったそう。

「妻の希望もあり、天井を高くしたくて元々あった天井をぶち抜きました。そうしたら、中にシャッターが収まっていたんです(笑)。外すことも考えましたが、結果的にはそのままになっています」。高く開放感のある天井の隅に、巻き上げられたシャッターが見えていました。

「この椅子、これを決めるのにケンカになりましたねえ(笑)」。一つひとつのアイテム決定に熱がこもっていた様子が想像できました。店内のライトは気泡が入ったガラス製で、光線が複雑になりキラキラと輝いています。

<素材・色・柄。一つひとつにチョイスしたストーリーがある>

オープンキッチンで女性も入りやすい雰囲気の店内は、テーブルの間隔などスペースの取り方にも配慮があります。あちらこちらに感じる行き届いたセンスから、じんわりとお二人の熱量が伝わってきます。

◆オープンキッチンから伝わるもの

「油が飛ぶことが多い中国料理店でのオープンキッチンは珍しいと思います」。料理のオーダーを受けて厨房に入っている時、最初にお客様をお迎えするのはホール担当のスタッフの方ですが、お客様のご要望を感じながら調理し、オープンキッチンだからこそ細やかな配慮ができる良さがあるとのこと。お客様との対話を大切になさっているのですね。

お客様の立場になって想像してみても、中国料理ならではのスピード感、躍動感を感じられる厨房との距離が近く「美味しいです!」と直接伝えられるチャンスがあることは魅力的です。

<ホームページ掲載写真をお借りしました。
艶々!美味しい!を堪能したい>

「もともと、人に対して感謝や励ましの表現方法として、態度や言葉で伝えるのは得意じゃないんです」。しかし「どうしてもオープンキッチンにしたかったんですよね」。清潔に磨き上げられた火の周りや床の様子から、日々のお仕事ぶりが伝わってくるようでした。

◆長く伝わる教えに加えていく決意

“中国では古くから人間には七つの感情があると言われており、それにより想いを伝えていきます。当店では七つに加え、料理という表現方法で八つの想いを伝え届けられる場所であるよう“08番地”と名付けました。”
o8番地ホームページより)

仕事をしていこうという意志が込められたお店の名前の由来。

儒学の経典の一つである「礼記」にある七情「喜 怒 哀 懼 愛 悪 欲」。さらに中国で長い歴史の中で育まれた「料理」を8番目に位置付けて、この地、この場所で調理人として人を元気にする仕事をしていく決意の現れなのですね。単純に「数字の8が好きだったこともあるのですが」。

中国料理は、エリアによってお料理が違いますね?「四川、広東、上海、台湾式などがありますが、うちは固定したジャンルを決めていません。日本であまり知られていないものを紹介したいと思いますし、逆にポピュラーでも私が好きなものなら提供したいと思っています」。

◆努力することはしない?

世田谷生まれの中村さんは、兄、弟と妹さんの4人兄弟。小さい頃は外で走り回って遊び、工作など、物を作ることが大好きだった少年時代を過ごすと、「カッコ悪いところは見せられない。努力しても上手くならないことは、努力しないと決めていたところがあったと思います」。しかし小学生の頃から、職人さんのお仕事に興味を持っていらしたとのこと。

「修行時代も、調理場の中での自分のレベルを意識していました」。調理場に慣れると、あえて新しい場所に身を置き、研鑽を積み、27歳の時には中国へ。圧倒的に違う「その国の香り」の中で調理人としてより優れたもの、より深い知識を身に付けるための努力を惜しみませんでした。「自分の価値を高め、お客様に対する姿勢を極めていく、ことですね」。修行時代のお仲間の写真を見せてくださいました。

◆何苦礎(なにくそ)魂

「岐路に立った時は苦しい方を選び、何事も苦しんで力をつけてきました」。道を選択し切り拓いていらした中村さんに、進路を考えていく若い方に向けて、メッセージをお願いしました。

「『自分がどういう生き方をしたいか』『どういう人間でありたいか』この2つをしっかり決めることが大切だと思います。私は調理人という生き方を選択し、自分の目指す調理人という人間像に近づけるよう何苦礎を胸に努力を積み重ねてきました。人それぞれ何に価値を求めるのかは自由なことで、この2つをしっかり決めれば、そこに至るまでのアプローチに多少のズレが生じても大きな問題にはならないように思います」。

言葉のニュアンスを確かめるように、ゆっくりと話してくださいました。

◆鉄人の考える基準

「20年間、料理のクオリティーを大切に考えてきました。でも料理だけでは人を幸せにできないと思うんです。その人自身がこの時間が楽しかった!と思ってもらえる空間が大切で、どこよりも美味しい料理をお出しすることは最低限のことです」。サラッと中村さん。

「体力的にも人生のピークを越えた時に、経験や技術の力が生きて、満足のいくものを作る。努力した後に見える世界、見えないはずのものが見える時があるんですよね。たまにですよ(笑)」。
誰と食べるか?食べる時間をこの場所で受け止める。来店される方々を柔らかな物腰で迎える中、眼は鋭く、燃える青い炎が強い力を発しています。

◆近隣との交流

以前、高齢者施設の方からお弁当の依頼があったそうです。「出歩くことやお店に足を運ぶことが難しい高齢の方にもお弁当を届けることができたことはよかったなあ。おばあちゃん子だったので」。とにっこり。「今後は、たとえばもえぎ野公園で、屋台か何かで食べてもらえるようなことができるといいですね」。

藤が丘もえぎ野の中国料理o8番地には、奥様と過ごす時間を大切にし、料理はもちろんスマートな世界観で楽しい時間を提供してくれるオーナーシェフがいます。

●中国料理 o8番地
横浜市青葉区もえぎ野17-7
045-532-4898

(この記事内の数値データ、組織名、役職名、製品・サービス内容等は、取材時の情報です。)

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久保田誉子

久保田誉子

くぼたたかこ(ライター) 婦人服デザイナー、MD、バイヤーとして勤務の後、ファッション業界を目指す学生たちの就職支援に従事。2013年、横浜市青葉区区民企画運営講座「AOBA素敵ウォーキングコレクション」の運営委員となり、企画運営に参加。現在は地域活動の学校・地域コーディネーター、服育講座の講師も務めている。

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