コミュニティをブレンドしてまちを面白く ─ スパイスアップの「コミュニティブレンド」
地域でプロボノ活動をしている私たちは「コミュニティ」という言葉を以前から耳にしていますが、それを語る人の立場や年代、場面によって「捉え方が違っているなあ」と思うことがよくあります。しかも最近、「コミュニティ」という言葉が世間一般で多用されて、ますます混沌としています。
そこで、スパイスアップとして「コミュニティ」をどう捉え、どうかかわってきたのか、そしてこれからどうかかわっていくのか、一度整理してみることにしました。
スパイスを加えてきっかけづくり
まず私たちがどういう活動をしてきたかを振り返ってみます。
私たちはフリーペーパー時代(2015-2020)、取材や情報発信を通して、人がそれまでと違う行動を起こす「きっかけ」をまちのあちこちにつくろうとしていました。記事を読んだ人が、自分と違う価値観を知ったり、記事で紹介された活動を応援したり、自分も新しい活動を始めたり、ちょっとしたスパイスを加えられたらいいなと思ったからです。
そのために設立メンバーで考えたのが、フリーペーパーを通して多様な人や活動を紹介することでした。
「きっかけ」づくりは、数学で言うところの何もない「Null=ヌル(ラテン語の「無」に由来)」から、「ゼロ」という起点をつくることなのかもしれません。ビジネスで「ゼロをイチにする」と言われますが、ゼロというスタート地点に立たないと何も始まらないわけで。だからフリーペーパーで「きっかけ」づくりにこだわりました。
活動をブレンドしてコミュニティを応援
やがて私たち自身がいろいろな人や活動とつながるようになると、今度は人と人、人と活動、活動と活動を、フリーペーパーを介さずリアルにつなぐようにもなりました。そして、活動の基盤をフリーペーパーからキッチンカーに代え、私たち自身がメディアとなって商品やサービスとともに情報を伝える「萬駄屋(よろずだや)」(2021-)に発展していきます。
そうすると、「ゼロをつくる」ことに加えて、0.5くらいからイチまでを伴走したり、イチから2や3にするところで連携したりする、といった小さなかかわりが増え始め、人々の交流の場や、ヒト・モノ・コトのファンをつくるお手伝いもするようになりました。
今までになかったつながりをつくって地域の活動を応援することが、コミュニティの醸成にもつながっている ── そんなスパイスアップのコミュニティとのかかわり方について話し合っていた時、メンバーの一人から「コミュニティブレンド」という新しい概念が出てきて、その場にいたみんなで「それだ!」と共有できたのです。
「ブレンド」と聞くと、コーヒーを連想しませんか?
「コーヒーブレンダー」と呼ばれる人は、イメージする味と香りのコーヒーを創ろうと、それぞれの豆の良さを生かして(ときに短所も補い合いながら)、最善の種類や配合を探ります。
私たちの「コミュニティ」とのかかわり方は、まさにそんな感じです。誰かの”得意”や”興味”を、それを活かせる場や機会とマッチングすることで、あっちの活動とこっちの活動で交流が生まれたり、どっちの活動にもかかわる人ができたり、あるいはいろんな活動を応援してくれる人ができたり。
私たちの活動はコミュニティを「つくる」というよりも、多様なコミュニティの一つひとつと関わりながら「混ぜ合わせる」活動です。それが暮らしなのか活動なのか仕事なのか、の線引は設けず、日常的にやっている、というかんじです。
改めて「コミュニティ」とは
「コミュニティ」という言葉は、「地域社会」「共同体」などと訳されますが、英語でも意味がたくさんあり、いろいろな文献を見ても決まった定義や概念はないようです。そんな中で興味深いのが「植物群落=plant community」。一定の領域でもちつもたれつの関係性の中で生きている個体の集まり、という感じでしょうか。
一方で人間のコミュニティの場合、領域を伴わない、共通の趣味や関心で交流する者同士の集まりもコミュニティ(共通の特性でくくる「クラスター」とは別)と言われるようになりましたし、マーケティングの目的でコミュニティをつくってビジネスに活かす「ブランドコミュニティ」のようなものまであります。
では、コミュニティをスパイスアップでどう定義しているか。それは「人々が何かを共にしたりかかわったりすることによって”正”の感情が内在している、非階層的で継続的な集まり」です(今のところ)。
コミュニティは、楽しさややりがい、安心感など、「組織」や「チーム」と同じように”正”の感情を伴うことはありますが、達成目標や上下関係、”組織の論理”といったものはないように思います。しかし両者は別々に存在するとは限らず、コミュニティの中で組織やチームとしての活動があったり、組織やチームの中にコミュニティが生まれたりすることもありそうです。
地域を”多様なコミュニティの集合体”に
いわゆる「コミュニティの希薄化」と言われるような、町内や集合住宅など領域内の人のつながりもコミュニティと言われますが、これを前述の私たちの定義に当てはめることは、── 少なくとも私たちの住む郊外住宅地では ── 難しい、と私たちは考えています。
昔は、隣近所で助け合わなければ、そして情報共有しなければ生きていけず、地域社会に属する以外の選択肢がありませんでした。けれども今は、身の回りのほとんどが商品やサービスとして手に入りますし、インターネットやスマートフォンを使えば時空を越えて人や情報とつながれます。
地域社会に属さなくてもやっていけると多くの人が感じている今、まち中の誰もが顔見知りで、まちの行事や仕事にみんなが参加し、困ったときはみんなで助け合う、といった昔ながらの地域社会を取り戻そうとすることは、気の遠くなる話です。
領域でくくられた人たちをひとつのコミュニティにすることを目指すのではなく、小さなコミュニティがたくさん生まれ、それらがゆるやかにつながることで、地域を”多様なコミュニティの集合体”にしていくことなら私たちにも目指せるんじゃないか、それには「コミュニティブレンド」がひとつのアプローチになるんじゃないか、と考えています。
まちや人の変化に気づける目を増やす
常連客同士や、ママ友、ボランティアグループ、休日にスポーツを楽しむ仲間、同業者のオフ会、犬の散歩で会って立ち話する愛犬家同士、貸し農園のお隣さん同士、などなど、まちには大小濃淡のコミュニティがすでにたくさんあります。一人の人が複数のコミュニティに属せば、その人を通じてコミュニティとコミュニティがつながるし、複数のコミュニティにその人を知る人ができます。
また、自宅と駅の行き帰りだけだった会社員が地域のサークルに入ったり、困難を抱える家族を見守る方が近隣のお店とつながったり、グループホームがご近所とつながったり、あるいはイベントで一緒になって意気投合した多世代が定期的に会うようになったり。そうやってコミュニティが重層的かつゆるやかにつながっていけば、地域全体を包含するネットワークがつくられます。
あるコミュニティをひっぱる人がいて、周りに参加する人がいて、理解してくれる人がいる。いろいろなコミュニティが地域の中に増えて、地域に目を向ける人が増えることが、地域とつながりのない人の変化や困りごとに気づける目になり、それがセーフティネットになっていけば ── そんな思いも、私たちのコミュニティブレンドにはあります。
スパイスアップとブレンドでまちを面白く
萬駄屋では、横浜市青葉区を中心に、小さなコミュニティ(あるいはその手前のクラスター)をまちのあちこちに増やそうと、いろんな商品を取り扱い、出店先ごとに”しつらえ”を変え、駄弁りの中からニーズを知ってソリューションとつないだりしています。とにかくいろんな「ブレンド」を仕掛けて、地元の皆さんにお気に入りのコミュニティを見つけてもらえたらと思っていますし、何よりもブレンドすることが私たち自身も楽しい。
「やっぱそうでしょ!」と想定どおりのこともあれば、「え、そこが響いたの?」みたいな驚きがあったり、「これもアカンかぁ」とうなだれることもあります。だからいつも萬駄屋は考えては試す、試しては考える。このときに大事にしているのは「生活者視点」です。私たちも地域に暮らしているからこそ、暮らしの延長線上で商品やサービス、ものごとの仕組みを捉えることをモットーに。
そして「インクルージョン&パートナーシップ」を大切にする点は、従来のスパイスを加える活動と変わりません。まちの中の多様な活動とつながっている私たちの強みを生かして、いろんな人を巻き込み連携することで新しい価値に生みたいと考え、企業とのパートナーシップによるプロジェクトも展開しています(これがまた、どれ一つとして同じ取り組みがない 笑)。
コミュニティブレンドは、いろんな人がやるほど面白くなると思います。その人の趣味や関心を生かした人と人のつなげ方が、地域の誰かの楽しみや手助けにつながっていくかもしれません。コミュニティブレンドをやってみたい方は老若男女を問わずご連絡いただけるとうれしいです。萬駄屋の出店先でも気軽に話しかけてくださいね。