東急田園都市線あざみ野駅から15分ほど歩いて桜並木を抜けた住宅街。5月の陽差しは強く、暑く感じるほどの晴天の午後、駐車場には軽トラックが停まっています。今回ご登場いただくのは、訪問美容Snip Snap 代表の三土手大造さんからのご紹介、田中技巧代表 田中達明(たなかたつあき)さんです。三土手さんは田中さんを称して「一家に一人、欲しい人」とおっしゃっていたのですが、果たしてそれはどのような意味なのか、半信半疑のままドアをノックしました。

「こんにちは!」明るい笑顔で出迎えてくださり、自転車や車のパーツがディスプレイされている事務所でお話を伺いました。涼風が通り、音に反応して光を発するスピーカーからはラジオDJの声が聞こえています。

◆自転車を押して歩いてくる人を見て、その人の乗り方が分かる。

しっかりと厚みのある田中さんの手は、どのように自転車に関わっていらっしゃったのでしょうか。早速インタビュー開始です。

13年勤務した大手自転車店では、田中さんだからこそ任されることがありました。たとえば外国人の方が自転車の不具合を伝えに自転車を押して来店した場合、「何となく、私の担当になるんですよね(笑)」。

「言葉は分からなくても、自転車を押して歩いてきた、その様子でその人の自転車の乗り方や修理のポイントが分かります」。

自転車に乗る人の手のひらの温度を感じ、不具合を感じ、そして解決する方法を感じ取るとのこと。観察眼は、状況をもう一歩踏み込んで掘り下げて考え、取り組んできた経験から養われていくもの。穏やかな話ぶりですが、仕事に対するひたむきな姿勢と熱さが伝わってきました。

◆乗り手の身体能力と自転車の機能をマッチングするということ

「うちの店舗では難しいけれど、都筑店の田中ならご相談の内容に対応できるかもしれない」。

どこの自転車屋さんに相談しても対応してもらえなかったという、ご夫妻と5~6歳の女の子が田中さんの元にご来店されたのは相模原店からの紹介でした。来店した時、女の子はポケットに右手を入れたまま、田中さんに向き合っていました。女の子のお父様から詳しく内容を伺うと、「右手の指がない我が娘が乗れる自転車を購入したい。お友達と自転車を楽しめるようにカスタマイズしたものを作ってもらえないか」とのオーダーでした。

自転車はハンドルを手で握り、指でブレーキを操作しながら乗るもの。しかし田中さんは、ハンドルで右手を支えるように自転車をカスタマイズしました。

そして、田中さんがご両親に「約束して欲しい」と話されたのは、必ず定期的にメンテナンスをして、安全に乗る条件が整っていることを確認することでした。

女の子から田中さんが受け取ったお手紙を見せていただきました。とても丁寧に書かれたお手紙には「こんな私でも」と綴られていますが、「できた」ことへの喜びと、諦めず実現するために力を注いでくれた田中さんへの感謝の想いがあふれています。そして、受け取った自転車に乗り、お友達と間違いなく充実した時間を過ごした時の映像を観たような気がしたのでした。

◆探究心を燃やして観察する職人気質

「色々、原因を知らないと気が済まなかったですね」。小さい頃、お父様の職場だった車パーツの製造現場で、モーターや車、動くものの生産工程を見る機会があったことで、どのような仕組みで動いているのか解体して調べることはもちろん、一つひとつ組み立てられたパーツの役割とその意味を遊びながら覚え、選球眼が鍛えられていたのかもしれません。

◆九死に一生を得て出会ったひとたち

小学生から中学1年生頃まではバスケットボールに夢中になり、その後はバイクに魅了され、そのスピードの性能を最大限に引き出す技能に優れた青年に成長していました。年齢による許容誤差はこの際お許しいただくことにして、バイクの性能を生かして走るレーサーとしての卓越した能力は、大人を唸らせる存在でした。

バイクの性能を熟知し、それを優れた身体能力をもって操りながらレーシングコースの風を切って走る田中さんに事故が起こったのは16歳の時でした。

45分間の心肺停止。複雑に骨折した箇所を丁寧に治療し、命の恩人となったのは済生会病院の女性医師でした。しかし、意識不明のまま力強く動いた田中さんの手がその医師にぶつかり、「命の恩人であるお医者さんの前歯を折ったらしいんですよね。本当にすいません、なんですけれど、覚えていなくて(笑)」。朦朧としている意識の中でも、スポーツで鍛えた俊敏かつ屈強な力は、計り知れない大きさがあったようです。

当初、リハビリを含め2年間入院との診断だったそうですが、驚異的な努力と回復力で入院生活は半年間。そこで出会った看護師さんや入院仲間の皆さんと映っている写真を見せていただきました。入院患者さん仲間と映る楽しそうな表情の写真が多かったのですが、その時のお写真を一枚お借りしました。骨折した時に使う車椅子って、こんな使い方でしたか?(笑)

心肺停止の時間が長かった影響で、現在も事故以前の記憶を全て思い出した状態ではなく、右足の感覚はまだ痺れている場所があるとのこと。写真からは田中さんの若かりし日のカッコいいワンショット、と見えるのですが大変な事故だったのですね。どうやらヤンチャなこともあったそうですが、「覚えていないので…」とちょっと困ったように下を向いて笑う田中さんは照れているようにも見えました。

前述の女の子のご両親にお願いした、乗り手の安全を守るための強い思いは、こうした田中さん自身の体験からくるものだったのですね。

もう一通、とても大事そうに見せてくださったお手紙がありました。入院中の長い期間、田中さんが病室を訪ねては話をするお相手だった方からのお手紙です。

「好きで話しに行っていただけなのですが、病院も明るくなった、と言われたりして」。開いて見せていただいたお手紙には、10代男子だった田中さんに向けて、年配の女性から、また感謝の言葉が綴られています。人に素直な気持ちを話すこと。笑顔で話すこと。楽しませること。こんな若い頃から、田中さんは幸せを運ぶ人でした。

◆感謝や自分の意思をはっきりと伝える

免許が無くても運転できる自転車だからこそ、守るべきルールがある。

警察と学校で、交通ルール指導講習の先生をされていたり、大学でジェットエンジンの仕組みについて話す機会があったりと、児童や学生の方にお話をなさる機会がある田中さんに、恒例の若い方へのメッセージを伺ってみました。

「ありがとう。最後の『う』をちゃんと発音した方がいいと思うんですよね。ありがと。とか、ありがとね。ではなくて、ありがとう。です。最初から最後まで、同じトーンで感情をはっきりと発音するんです」。

「営業時間が夜中までだからなのか、紹介されて、最近なぜか中高生の相談役になることがあって(笑)」。人生相談のようなお電話を受けられるそうなのですが、周りから言われていることについて悩んでいて、自分に疎外感を感じていている人が多いそう。

「自分の言葉で、何のために進もうとしているのかはっきりと言うことが大切です。面と向かってはっきりと言えば、周りの人生を変えられるんですよね。これは一人の人間として大切で、相手の人生にかかわることができる。一歩進む行動をする習慣をつけて欲しいですね」。

信条を淡々と語る田中さん。気が付くとかなり長い時間お話を伺っていました。お仕事のお邪魔になったのではないかと恐縮して事務所を失礼しました。

少し涼しくなった道を、お話の内容を振り返りながらあざみ野駅へ向かって歩きながら、ちょっと心残りだったことに気付きました。お礼を申し上げた時、きちんと語尾まで発音できていたでしょうか。もっと意識して発音するべきだった…。理解はできていても、確実に実践するには修行が必要のようです。

決して押し付けがましくなく、相手に必要なことを豊かな経験と逞しく確かな腕で実現してくれる、そんな頼もしい自転車修理の達人が、あざみ野にいます。

田中技巧 夜間自転車出張修理
横浜市青葉区あざみ野3-26-9 サンハイツB棟103
070-3523-7418


(この記事内の数値データ、組織名、役職名、製品・サービス内容等は、取材時の情報です。)

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