【地域で生きていくために 03】ことば ─ まだまだ宇宙語ですが

<はじめに>

みなさん、「ダウン症」ってご存知でしょうか。なんとなく顔つきが似ていて、知能の発達が通常ではないな、というのが多くのイメージではないでしょうか。さらに読む

第3章 ことば

さて早いものでこのコラムも3回目となりました。今回は「ことば」について書きたいと思います。

僕と妻の今の最大の希望は、“あや”と会話をすることです。皆さん、僕が何を言っているのか意味が分からないですよね。

あやは現在、小学6年生です。やっと最近単語を少し覚えてきましたが、理解となるとまだまだです。発音も、口の使い方のせいなのか、初めて聞いた人はおそらく聞き取れないレベルだと思います。

だから悲しいかな、あやの思っていること、やりたいこと、悲しいこと、うれしいことのすべては分からないのです。我が子の考えていることが分からないのは結構辛いものがあります。周りの子が成長する中で、僕と妻は自分たちの辛さばかりを考えていました。

が、ある時、はてと。あやからすると、思っていること、やりたいこと、悲しいこと、うれしいことを言葉で誰にも発信できない。一番の理解者であるべき親にすら思いを伝えられない。これってストレスどころの話じゃない。あやは、今は自分の要求が分かってもらえない時は、唸ることでしか表現できないのです。なんとかしなければ……。

藁をもすがる気持ちで、怪しげなダウン症児の言葉の訓練教室にも行きました。インターネットで見つけて4、5回通いましたが、無理だと思ったのか、「次の予定はこちらから連絡する」と言われそれっきり。青山まで通ったのですがね。1回1万円という、足元を見られた感じでしたが……。

県のリハビリテーションセンターへも行きました。ようやく予約がとれて受診するも、「知的な障害の場合はここでは無理ですよ」と、けんもほろろで。

通っていた療育センターではOT(occupational therapy:作業療法)、PT(physical therapy:理学療法)は受けさせてもらえたものの、ST(speech therapy:言語聴覚療法)はなぜか時期尚早と言われ訓練できず。

あやは、身体的には歩き始めは遅かったもののその後は順調で、健常の子と全く同じまでとはいかなくてもそれなりについていけるようになりました。

ただ「ことば」はなかなか厳しいのです。あやは2歳で療育センターに通い始め、縁あって保育園にも通えました。そこでは素晴らしい先生や園児に恵まれ、本当に成長させてもらいました。今は小学校で個別教育を受けています。障害児のキャンプに行ったり、ダウン症の子のダンスクラブに入って、中野サンプラザでライブをしたりと、いろいろな経験を積んできました。それでも「ことば」はなかなかなのです。

「ことば」って……振り返ってみて、皆さん自身、またはお子さんがどうやって言葉を覚えたかって記憶はあまり残ってないですよね。なんとなくいつの間にか、自然と、ですよね。

あやにはその“自然と”がありません。1から教えないといけないのです。そもそも“1から”が難しい。

例えば「りんご」。赤い、丸い、食べ物、甘い、硬い、果物。普通はこれらが連動して「りんご」を覚えていくのだと思いますが、あやは相当な時間がかかります。また、絵、写真、テレビ、実物の「りんご」は、それぞれ別物なのです。だから物の認識も大変なことなのです。

ようやく覚えても、発音がまた大変。50音の発音にも、口、舌、息などの使い方がそれぞれの音にあります。あやの訓練に立ち会っていると、なるほどと思うことが沢山あります。英語の発音を覚えるときと一緒ですね。rとlの発音で我々が苦労するように(笑)。

今は月に2回、横浜療育医療センターでSTを受けられるようになり、いい先生にめぐり会えたこともあって、少しずつですが成長しています。

最近まで、あやは発音が難しいのか「パパ」「ママ」が両方「アバ」だったのです。特に「マ」が難しそうだったので、「ママのマはトマトのマ」と繰り返し教えていました。すると、いつのまにか「ママ」ではなく「トマトママ」とあだ名のように呼ぶようになりました。「パパ」は誰が仕込んだのか「パイナップル」になっており、街なかで、大きな声で「パイナップルーッ」と呼ばれると、振り向くのに勇気がいるのは嬉しくもあります(笑)。

僕の思うこと。あやの思うこと。

あやは、とにかく友達と遊ぶことが大好きです。健常児、障害児は関係なく楽しんで遊びます。聞いていると、やはり会話にはなっていません。ですが双方ともいつも笑顔で、笑い声が絶えません。

まだみんな小学生だからか、大人のように言葉をしん酌して会話するのではなく、雰囲気で楽しめるんだなというのがよく分かります。前回(第2章 あや幼少期)お話したように外見が幼いこともあってか、クラスメイトはほんとによく面倒をみてくれます。妹のように思っているのかなというくらいに。

あやにとっては、訓練で学んだことも実践しなければ身に付かないので、皆さんとの会話は本当に重要なのです。会話が成立していなくても、あやの中では、会話が蓄積されるので。

まだまだ宇宙語で、初めて聞くとびっくりして会話を続けられないと思いますが、よーく聞くと分かる単語もありますし、ジェスチャーが大きいので想像はできます。一方通行でもいいので、ぜひ話しかけてやってください。会話している雰囲気があやは大好きなのです。
 

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松波 直樹

松波 直樹

まつなみなおき(ライター) S44年12月生まれの47歳。出身は東京都国立市。現在、妻・長女(中2)・次女(小6)の4人で横浜市青葉区に在住。都内大学を出て、保険会社に入社し、埼玉、千葉、仙台、東京と転勤し、現在は横浜の支店に勤務。学生時代はラグビーや競技スキーをしていたものの、仕事の忙しさを言い訳に、社会人になってからはだいぶ不健康人間に。ロンドン五輪で村田選手が金メダルを獲ったことに感動して、ジムで週1回キックボクシングを始めて、気分はなんちゃってボクサーになっています。

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