【少しの想像 01】この赤信号も渡ってはいけないの?

<はじめに>

私は横浜市青葉区で発達に課題を抱えている人たちのための 学習センター を運営しています。学習と言っても、国語や数学のような教科学習を教えているわけではありません。イスラエルの教育心理学者ルーヴェン・フォイヤーシュタイン教授が開発した認知機能強化教材(IE;Instrumental Enrichment)を用いて

●システマチックに計画的に情報を集める。
●物と物の関連性を比較、推論する。
●全体から部分に、部分から全体に分析・統合する。
●時間とともに物事は変化すること、さらにそれはどのように変化するのかを考える。
●同時に2つ以上の情報を扱う。
●自分の行動の結果を確かめる。
●自分の考えを適切に説明する。他の人の考えを正しく聞いて理解する。
●上位概念から考える。

などについて一緒に考えています。このような日々の活動を通して、私が経験した発達障害の人たちの思考特性や特異な感覚などについて、簡単に紹介したいと思います。

発達障害の人が抱えている問題の大部分は、周囲に理解者がいれば解決可能だと言われています。理解というと大袈裟に感じるかもしれませんが、ユニークな感性を持っている人がいて、その感性が原因で何に困っているのかを少し想像してみてくださいということです。このコラムがお役に立てば嬉しく思います。

自閉傾向のある小学生とあざみ野の駅前を歩いていた時、赤信号にもかかわらす彼は横断しようとしました。

「赤信号だからちょっと待とう。渡ってはいけないよ」
と私。すると彼は
「ここもか~!」
と言いました。
「どういうこと?」
と思わず彼に質問すると
「ここの赤信号も渡ってはいけないんでしょ?」
と答えたのです。

彼には、赤信号というものがバラバラに個別に存在しているのですね。「あざみ野のこの交差点の赤信号」「青葉台のあの赤信号」というように。つまり「赤信号」という上位概念が分かっていないのです。

たとえは、ミカン、りんご、バナナ、メロン……、これらの上位概念は「果物」です。私の経験では、自閉傾向のある人はこの「果物」という言葉が出てこないことが多いです。ミカン、りんご、バナナ、メロンなどは具体的で分かりやすいのですが、その上位概念である「果物」は抽象的なので、分かりにくいのかもしれません。

抽象的なことが分かりにくいということは、隠れた言葉の意味を察すること、いわゆる「空気が読めない」ということにつながります。

風呂の湯を張っているときに急用ができたので、「お風呂見ておいてね」と子供に指示して出かけて、帰ってみたら、あふれたお湯を子供がじっと見ていた、などはよく聞く話です。「この線までお湯が来たらお湯を止めてね」などのように、発達障害がある人への指示は具体的・明確であることが重要です。

しかし、世の中いつも同じことが起こるとは限らないので、身の回りで起こる個々のことをすべて具体的に指示することは不可能です。先ほどの赤信号の場合、日本中の交差点へ連れて行って、「信号が赤の時は渡らない」と教えることはできません。なので「赤信号」という上位概念(抽象)から、個々の信号(具体)について考える、というトレーニングが必要になります。この時は後日、信号の役割から説明し、赤信号について生徒自身に言語化させました。もちろん、一度ですべてうまくいくわけではありませんが……。

うちの生徒たちは、このような自分の苦手なことを頑張って練習しています。ですから皆さんも、なぜそのようなことを言うのか、どうしてそのような行動になるのかを想像し、一歩歩み寄ってあげてください。

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天田 武志

天田 武志

あまだたけし(ライター) 薬品メーカーの研究員として、技術開発、基礎研究、製品開発などに従事する。その業務の傍ら、心と学習の関係や、身体の動きと発達の関連などの学びと研究を続け、”身体の動きを通して学ぶ力を育てる”をモットーに ラーニングクエスト学習センター を設立。発達につまずきのある子供たちを中心に学習支援を行なっている。2011年よりフォイヤーシュタインプログラムのトレーニングを開始。 現在までに、Feuerstein Institute認定 FIE Mediator、Feuerstein Institute認定FIE Basic Mediator、Feuerstein Institute認定 FIE Tactile Mediatorを取得。その他に国際教育キネシオロジー財団認定 教育コンサルタント、国際教育キネシオロジー財団認定 ブレインジムインストラクター、ブロムベリ・リズムミックムーブメント・トレーンング インストラクター。

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