【人物図鑑 18】原田 亮さん ─ 街場のイケメン料理人は、ダントツのイクメン オーナーシェフ

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3丁目カフェ

東急田園都市線江田駅から、みすずが丘へ続く駅前の道をまっすぐ4分ほど歩いた場所にあるスペイン料理店に伺いました。遅い時間のランチタイムでしたが、ドアを開けると何組ものお客様がランチを召し上がっています。今回ご登場いただくのは、SOCORA bespoke chocolate lab 西山浩平さんから「オーナーとしていつも学ぶことが多いシェフ」とご紹介いただいた、トラットリア・シャント オーナー 原田 亮(はらだりょう)さんです。

トラットリア・シャントのデザートメニューには、原田さんが作るデザートに加えてショコラがあります。「一口甘いものが食べたい、とおっしゃるお客様にSOCORA西山さんのボンボンショコラをお出ししています」。

私自身も何度か友人や家族とランチした場所ですが、今回は友人オススメのとろける口どけのジャガイモのニョッキとパエリアをオーダーしました。ニョッキは、ソースで味わうパスタだと思っていましたが、ジャガイモそのものの味がしっかりと感じられる柔らかな口当たりでした。

優しくとろける味わいのジャガイモのニョッキ。粉類は型を保つための最小限の分量しか使用しない
パエリアはお焦げまでペロリといただきました

フロアでお客様とお話し中の原田さんはパリッとプレスの効いた赤いエプロンを締めています。ディナータイムの仕込みまでの時間をいただいてお話を伺いました。

◆ 食材を活かす技

「誰でも当たり前に買える材料で作る料理を大切にしています」。プロしか分からないようなこだわりの食材や華やかさで勝負したり、○○料理は~すべきと言った既成概念をどう外していくか。「火の入れ方、塩の振り方、塩をするタイミングなど、経験の積み重ねやちょっとしたことなんですよ」。

いやいや、その“ちょっとしたこと”の違いが素人とシェフの大きく違うところです。しっかりとした指、手の動きは流れるように綺麗なことに気づきました。

「修業先で『向いていない』と言われたこともあります」。

何がきっかけでシェフへの道を決めたのでしょうか?

◆コンプレックスから進路に悩んだ日々

高校時代、「美術分野に進んでみたらどうか?」と先生に勧められるほど画力が高かった原田さん。しかし、家族の中で絵画や造形に関するセンスや技術の高さはお姉さまの専売特許だと感じていました。物を作る事に興味はあったのですが、作品が形として残ることを恥ずかしく思い、美術を進路として選択する気持ちにはなりませんでした。

「高校の野球部が一番楽しかったですね」。しかし部活動引退の時期を迎えると、一生懸命活動していた野球を急に取り上げられ、進路準備のための時間は持て余し、どうしていいかわからなくなったそう。両親の勧めでとりあえず大学に進学しましたが「前向きに勉強する意欲は持てず、だめ人間でした」。

◆モヤモヤ期からの脱却

画家として、美術作家として評価が高い父と姉。ところが原田さんが大学2年生の時に53歳の若さでお父様が亡くなられました。ロンドンの美術大学に留学中でいらしたお姉さま、結婚して独立なさった弟さん。地方の大学で一人暮らしをしていた原田さんは、お母様がお一人で寂しい思いをなさらないように寄添い、お父様が亡くなった1年後の3月、「面倒臭かった」大学を辞めて働く決心をお母様に伝えました。ご自宅近くのスペイン料理レストランの店で修行することを決めていたのです。お店を経営している人から、直接お店の持ち方を教えてもらいたいと行動した、23歳の決意でした。

野球部を引退した後に訪れた無気力だった時期を取り返すかのようにがむしゃらに仕事をし、ひと月当たりの勤務時間は400時間になるほどの打ち込みようでした。「体重が48kgまで減り、ボロ雑巾のようになるまで働きました」。その6年半を経て、その後さらにイタリアンのお店で8年研鑽を積まれています。

ひたすら料理に向き合い、同じ事をやり続ける。師匠の技術を観察して手の動かし方を模倣する。答えが出るまでやり続けて『お店を持つ』決意を実現していきます。丁寧な仕事をし、こだわったもの・美味しいものを作るプロセスを大切にした自分のお店を持つ機会が訪れたのは、38歳の時でした。

お父様が描かれた大きな絵画やお姉さまの作品のステンドグラスのランプやオブジェが飾られている

◆大切に考えていることを現実にする

独立してお店を構えるにあたり、原田さんが考えていた条件がありました。
人が一気にたくさん来ないこと(笑)。混雑する時間帯が集中する駅前のような場所ではなく、一人で料理を作り、落ち着いて仕事ができることは大切なことでした。たくさんの人を雇って忙しい時間を乗り切るのではなく、原田さんが料理を作り、お客様と話すことができる立地と大きさの店舗が理想的でした。
トラットリア・シャントは、スーパーマーケットや飲食店が立ち並ぶ道とは反対向きの、駅から住宅街に伸びた道沿いにあります。駅から遠くはないけれど、「行こう」と決めて歩き出す方向に位置しているのです。「ここは夜の時間、道から見るとお店の光の漏れ方も良かったんですよね」。

◆子供を育てる覚悟を持って店を構えること

看護師をなさっている奥様とお二人で仕事をしていくにあたり、当時まだ小学校と保育園に通っていたお子さんのために、何かあった時に時間をかけずに子供たちのもとへ駆けつけられる場所であることも必要だと考えていました。「震災の後でしたからね」。2011年の震災は、皆が勤務先と自宅の距離について考え直すきっかけになったことを思い出しました。

「イクメンには自信があるんです」。謙遜してお話なさることが多かった中で、ここはキッパリと自信たっぷりの口ぶりです。どのくらいイクメンかというと、お2人のお子さんの学校関係の用事は全て原田さん担当。「PTA委員の校外委員長をやりましたし、先生との面談や授業参観も僕が行きました」。通学路の安全確保のために、警察署や土木事務所などに交渉が必要な委員会のお役目を担当されていらしたのですね。

現在も、高校3年生と中学2年生のお子さんのお弁当作りや塾の先生との面談などは原田さんのルーティーンに組み込まれているようです。「面談だって二人が代わる代わる行くよりも、一人が継続して話を聞くほうがいいですよね。朝食の支度や子供たちのお弁当作りもどちらかの役割にするより二人でやったほうが効率いいでしょ?夫婦二人で仕事をしている場合、うまくいくコツは役割分担をしないことです」。

原田さん、提案があります。ドリンクメニューに原田さんの爪の垢を煎じたカクテルをこっそり加え、「イクメンになれるカクテル」として、にわかイクメンの皆様に飲んでもらってください。

◆いつもそこにあり、食を楽しむ場所を提供する

「料理は、お客様にとっておいしいことと安いことが大切だと思うんです」。何をチョイスするか、お店の使い方はお客さんが決めること、と言い切る原田さん。「食卓を囲み、家族全員が楽しめるならば、スペイン料理店でもスパゲッティーがメニューにあっていいと思うんです。記念日などの行事で集まるときに、『あそこでいっか』と安心して選んでもらえる店でありたい。何かにつけて思い出してもらえる存在でありたいですね」。

シェフのこだわりを見せびらかさずに懐にしまい、黒子に徹した職人として確かな技術で仕事をする。お客様には安定の美味しさを提供し、驚きや感動のリアクションを押し付けない姿勢の原田さん。安心と信頼がある、地元に根付いた場所であるために、同じ味を作り続ける覚悟が伝わってきました。「でも、同じ味と感じるものでも毎年少しずつ、進化しているんですけどね」。

◆全力でやり続けると、好きなことも仕事にできる

このコラムでは恒例の、若い方に向けたメッセージをお願いしました。「好きなことがあるなら、その好きを仕事にすればいい。本気にならなきゃ。表面を撫でただけでは見えてこないので、目の前のことに全力で取り組んで、意地でもしんどい思いをして好きな事をやる。好きなことと本気で向き合うことが大切だと思います」。

「好きなことが見えていなければ、やはり目の前のことを全力でやる。必死に全力でやると好きになります。やればやっただけ楽しく、やっただけ結果が出る。やればやっただけ色々見えてくる」。

まず行動することが大切なのですね。さて、みなさんが全力で取り組んでいることは何ですか?

◆「楽しい」と「緊張感」は一緒にある

「今の方が仕事は楽しいし、楽しいことをしていたい。部活の延長のようで遊んでいるような感覚です。毎日すげー楽しい(笑)。でも野球の試合のように緊張感もあります。今でもお客様に一皿お出しするごとに緊張するんです」。
料理を作り、ひと段落するとフロアに出て常連のお客様とお喋りに花を咲かせる。「息子さんが私と同世代のお客様もいらっしゃって、可愛がっていただいています」。ちょっと照れ臭そうな笑顔で話す原田さんでした。

数年前、テラスにぶどう棚を作られましたよね?
「陽よけにはゴーヤの方がいいのかもしれませんが(笑)ぶどうを植えました。他にも作っている野菜はマイヤーレモン、バジルとイタリアンパセリ、ミント、ミニトマト……ですかね」。

取材をさせていただいたのは、ちょうど8周年を迎えた日でした。「毎年、義父がお花を贈ってくれます」。8年前の2011年10月29日、江田にオープンしたトラットリア・シャントに、素材を活かし、天性の器用な手先と鋭い観察眼で鍛えた食材を活かす技で、客人を満足させるスペイン料理オーナーシェフがいます。

●TRATTORIA SCIANTO
横浜市青葉区荏田北3-8-7
045-915-8666

(この記事内の数値データ、組織名、役職名、製品・サービス内容等は、取材時の情報です。)

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久保田誉子

久保田誉子

くぼたたかこ(ライター) 婦人服デザイナー、MD、バイヤーとして勤務の後、ファッション業界を目指す学生たちの就職支援に従事。2013年、横浜市青葉区区民企画運営講座「AOBA素敵ウォーキングコレクション」の運営委員となり、企画運営に参加。現在は地域活動の学校・地域コーディネーター、服育講座の講師も務めている。

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