平日の午後、青葉台駅から続く並木道を5分ほど歩き、つつじが丘にあるバレエスタジオを目指しました。今回は、居酒屋 八郎右ヱ門上谷孝夫 さんからのご紹介、舞踊家であり、「アミューバレエスタジオ」主宰でもある 丸岡浩(まるおかひろし)さんです。

立ち姿の美しい丸岡さん。バレエスタジオには姿全体が映り込む大きな鏡があります。どちらを向いても視界に入る自分に少し緊張し、いつもより姿勢を意識してゆっくりと椅子に座りました。

◆役柄を表現するために大切なこと

バレエはつま先で立つことが大変と良く言われますが、「本当は降りることが難しいんです」。丸岡さんのバレエスタジオでは、コンクリートの構造床の上に木組みをし、その上に作られたフロアはあたりが柔らかく、脚や腰に負担がかからないように工夫されています。硬い床で練習を続けていると、筋肉が付きすぎて、足が太くなってしまいます。「生徒さんの足を太くしてしまうわけにはいけませんからね」。

正しいテンポで音を取るために「指先やつま先で音を取るようにするのですが、音が聞こえた時にはもう、そのポジションにいないといけないのです」。軽やかな跳躍と着地を観せる振り付けと、半音ずれるような時差を作らないための音やタイミングの捉え方について話してくださいました。

(写真提供:丸岡浩さん)

「英語圏の振り付けをそのまま踊っている人もいます。しかし、英語と日本語は文法が違うので、僕が振り付けるときは変えています。例えば、I love youは『私は、愛しています、あなたを』ですが、日本語では『私は(自分を指し)、あなたを(相手に手を向け)、愛しています(胸に手を当てて気持ちを表す)』。この順番が日本語圏でわかりやすい“マイム”になります」。言語の文法を十分に配慮した振り付けが観客の理解につながるのですね。

◆ 舞台で生きる

舞踊家の方は、小さい頃からバレエのレッスンを受けていらっしゃるイメージがあります。しかし、小学生の丸岡さんは鼓笛隊で活躍し、新潟まつりでは万代太鼓や横笛を演奏。その後トランペットなどの演奏で音楽に親しみ、高校時代は演劇部で活動する青年でした。

そして、小学生を対象にした山椒大夫などを上演する東京ミュージカルアンサンブルに入団。そこで演者として活動しながら、師の勧めもあり基礎からバレエを習い始めました。バレエの奥深さに魅せられて関わる時間を増やし、本格的にクラシックバレエの世界、東京シティ・バレエ団に入団します。めきめきと頭角を現し、年間150から200ステージこなすソリストとして活躍するまでに時間はかかりませんでした。

「毎日同じ時間に出勤する仕事をするのではなく、感性を大切にして、いつも何かを感じている生活をしようと思いました」。丸岡さんが感じた世界観を発信するのは、いつの時代も舞台です。

◆大失敗の経験が人を大きくする

独立してスタジオを構えようと、場所を探していた折、並木道が美しい青葉台に出会いました。「中学生の頃、短い期間ですがたまプラーザに住んでいました。そこと青葉台は近いのに、こんな綺麗な街があるとは知らなかったんです」。2009年、青葉台駅からほど近いつつじが丘にアミューバレエスタジオを構えました。門下生からは、現在、ロシアやドイツのバレエカンパニー、ニューヨーク、そして宝塚で活躍されていらっしゃる方々を輩出しています。

世界で活躍する舞踊家を育成している丸岡さんに「若い方々にメッセージをお願いできませんでしょうか?」とお願いしました。「今は何事にもソツがなく、怒られないようにしていませんか?いっぱい恥をかいて、失敗することが大切ではないかと思います。失敗しても、きちんと自分を出していくことが成功につながります」。

若い頃、舞台本番中に転んでしまい、終演後大急ぎで先生に謝りに行ったことがあったそうです。困惑した丸岡さんの様子を受け止めて師の発した言葉は、「転ぶほど頑張ってくれたんだね」。「こんな風に言えるようにならないと…」。師の言葉をもう一度噛みしめるように、丸岡さんの目の光の強さが増しました。

◆物語で活躍する魅力的な登場人物たち

2017年5月27日。小さなお子さんからシニアクラスの生徒さんが通う、「アミューバレエスタジオ第5回発表会」に伺いました。会場の横浜市西区にある神奈川県立青少年センターのホールは熱気が溢れていました。

演目は、「小品集・バレエコンサート」と「シンデレラ全幕」。今回丸岡さんは、シンデレラの継母役としてご出演されています。2人の娘を王子にアピールしてもうまくいかない様子、そして王子が持参した靴を自分にも合わせてみる様子など、昔、絵本で読んだ記憶の中の継母のイメージよりも、ずっとコミカルな人物像として描かれていました。シンデレラが残した片方の靴を手に、世界中を探す王子の苦悩、王子と対極にある道化の個性。そして、各国の特徴を表現する舞台背景や衣装など、舞台で繰り広げられる世界観は、主役だけでなく、登場人物それぞれのキャラクターがとても魅力的に描かれていました。

ブラボー!! 観客席から大きな声が飛びました。シンデレラ全幕、舞台を行き来するたくさんの役の振り付けとご指導をなさる丸岡さんのお力の大きさを感じ、手がジーンとしびれるまで拍手を送ります。音楽、照明、そして踊り手たちが作り出す総合芸術の世界は、ゆったりと楽しく、豊かな時間でした。

(写真提供:丸岡浩さん)
◆熱演する舞台でも、客席で客観的に観ているような冷静さが必要

終演後の舞台袖で、出演を終えてキラキラ輝いている中学生くらいの生徒さんが、平服のご友人の肩に手を回し、まだ継母のメイクのままの丸岡さんの元へ。「先生!6月から、また行きます!」。レッスン再開を伝える場面に出会いました。丸岡さんは、しっかり見つめて「はい!待っていますよ」。短い会話でした。

舞台から発せられたエネルギーを感動と共に受け止め、出演者に思いを伝えようと観客はロビーに溢れています。

周りが踊ることを止めさせてくれず、ゆうに1,000ステージを超える数え切れないほどの舞台に立ってきた丸岡さん。役に集中して演じきり、熱演しながらも、客席からどう見えるのかを客観的に考える冷静さを持つバレエ界の重鎮です。

「アマチュアも、プロも、クラシックバレエは基本、動きは変わらないんです」。大きな鏡の前で毎日、変わらずレッスンをする。その積み重ねの上に、それぞれの物語を大切に伝える舞踊家が、私たちの近く、青葉台に凛としています。

アミューバレエスタジオ(Amieux Ballet Studio)
横浜市青葉区つつじが丘23-14 アルファ青葉台4F
045-984-7248
amieux.balletstudio@ezweb.ne.jp


(この記事内の数値データ、組織名、役職名、製品・サービス内容等は、取材時の情報です。)

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